大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟家庭裁判所長岡支部 昭和43年(家)2390号 審判

申立人 清水あさ(仮名)

事件本人 杉本正(仮名)

主文

事件本人杉本正の親権者を、本籍新潟県北魚沼郡○○○○大字○○△△番地亡杉本実から申立人清水あさに変更する。

理由

申立人は、主文と同じ趣旨の審判を求め、その実情として、事件本人は昭和二十五年八月十日本籍新潟県北魚沼郡○○○村大字○○△△番地杉本実とその妻であつた申立人との間の長男として生れたものであるが、事件本人の父母は、昭和四十一年四月四日事件本人の親権者を父杉本実と定めて協議離婚をした。しかし申立人は引き続き事件本人を養育して居たところ、事件本人の親権者と定めた父杉本実が昭和四十三年四月十六日死亡したので、親権者を申立人に変更することを許可されたく本申立に及んだ次第であるというのである。

そこで審案するに、亡杉本実及び清水あさの各戸籍謄本、杉本正の住民票抄本に家庭裁判所調査官石塚義郎の調査報告書を綜合すれば、申立人は昭和二十二年九月十二日杉本実(大正七年三月十七日生、本籍新潟県北魚沼郡○○○村大字○○△△番地)と婚姻して懐胎した結果、昭和二十五年八月十日申立人の実家において事件本人正を出産したものであるが、右杉本実が申立人の出産不在中懇ろになつた岡キヨを家に入れ、次いで父母の養子として入籍させて同棲生活を続けたことから、申立人は夫実と別居生活をすることになり、自ら事件本人を養育して居たが、その後夫実と協議の末、学校教育を受けさせる便宜を考え、事件本人の親権者を一応父実と定めて昭和四十一年四月四日協議離婚をしたものであるけれども、申立人は依然として事件本人を手許に同居させて事実上の親権者として監護養育を続け現在に至つたものであり、他方父杉本実は前記杉本キヨと同棲生活を続け、その間同人の懐胎出産した千代子及び光子を認知し、更に申立人と正式に離婚手続を済すと間もなく杉本キヨと正式に婚姻して同人の出産した右二児を養育して居り、事件本人の監護養育は専ら申立人に委せ、只その生活費の一部分担の意味で一ヶ月金壱万円と事件本人の下宿料等を支給するに過ぎなかつたところ、昭和四十三年四月十六日病死したものである事実が認められる。

ところで、親権者と定められた父または母が死亡すれば当然後見が開始し後見人を選任すべきものであり、もし他方の親が適任者であるなら後見人に選任すればよいとする有力な説があるけれども、後見と親権とを区別する民法の立場からいえば、むしろ父または母の監護養育の職分をできるだけ親権者として行使させることが国民感情に適するものと考えられる(法律学全集我妻親族法三二五頁、法律学体系第二部於保親子七二頁参照)。殊に本件の場合は、申立人が一旦事件本人の親権者を父杉本実と定めて協議離婚したものの、出産以来現在に至るまで引き続き事件本人を手許において、恰も事実上の親権者の如く監護養育に専念して居り、且つ親権者としても真に適当であると認められるのであるから、申立人を事件本人(未成年者)の親権者とすることは、結局事件本人の利益にも合致すると考えられるので、本件申立を相当なものと認め、主文のように審判する。

(家事審判官 坪谷雄平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例